住宅会社の社長はよく本を書く。
…というよりも、ゴーストライターが書くケースも多いので、正確には「出版する」と言ったほうがいいかもしれない。
目的はだいたい「自社および自社製品の宣伝」であることが多く
「…だから○○ハウス(ホーム)の住宅はすばらしいんですよ」という結論が多い。
営業マンが営業名刺代わりにカタログでなく社長が書いた本や小冊子を配る。
そのほうがカタログよりもじっくり読んでくれる確率が格段に高くなる。
「社長のその家づくりへの想いに感動した!」と施主がファンになり、受注に結びつくケースも多い。
だから、非常に有効な営業ツールという見方が業界では強い。
かつて私も記者時代に多くの社長本を読んだし、新聞に書評も書いたし
時にはゴーストライターとして某社長本を執筆したこともあった。
だからというわけではないが、今回も正直、それほど期待はしていなかった。
今日取材に訪れた際、広報の方が「実は社長が本を出しまして…」と下さった1冊。
帰りの電車で久々に読みふけり、3駅ほど降り過ごしてしまった。
「普通の人」である井上氏が上場企業の社長になるまでの成功ストーリが書いてあるのだが、
それがハナにつかず、非常に自然体で書かれている。
住宅本というよりも人生本、起業本に近い。
もちろん井上社長自らが執筆したという。
「社長になって1年無給に耐えられますか?」
「HTMLの知識もなく、マック1台でゼロからはじめた」
たまたま当時の井上社長に今の私を勝手に重ねて見ているからかもしれない。
だからこの本の感想はあくまで今の私の私見である。
大変申し訳ないが、スマッチ!の生みの親のR社が競合と警戒しているN社の社長である。
私はこのN社のサイトに連載を書かせていただいているが、
だから取り上げるわけではないことを強調しておきたい。
この本を読んで、この10年の業界の激変に思いを馳せずにはいられなかったからである。
ちょうど10年前、私が業界紙記者に転向し始めた頃、N社は産声を上げていた。
当時は、まだネット黎明期。
「住宅や不動産をインターネットで売る(仲介する)」ということがまるで夢物語のように語られていた。
当時まだ20代だった(はずの)井上社長が副社長(当時はまだ2人体制だった)と新聞社を訪れ、
不動産インターネットについて記事に取り上げて欲しいと熱心に説明していたのを
フロアの遠くから眺めていた記憶がある。
あれから10年、N社は晴海トリトンにオフィスを構え、200人の社員を擁し、
東証マザーズに上場を果たすまでの大企業になった。
「人と住まいのベストマッチング」という企業理念は、10年前、横浜で副社長と2人で小さくはじめた時のプレスリリースにも書かれていたと思う。
志は一貫している。
今日も京都の2ホテルで耐震偽装が発覚した。
今の住宅業界ほど「高い志」という言葉が乾いて聞こえる時代はない。
「青臭い」「志でカネになるのか?」といわれればそれまでだ。
でも数千万円する住宅を、今や性能やデザインだけで買わせることは難しくなっている。
人の心を最後に動かすのは、ストーリーであり、想いである。
そんなことを考えると、社長のストーリーや想いをつづった住宅本は
今後もますます増えるのかもしれない。
と、降り過ごした駅を戻りながら思った。
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